SPECIAL

スタッフインタビュー

第1回スタッフインタビュー(TROYCA 長野敏之さん)

――この取材に際して全話先行して拝見したのですが、これまでTROYCAが手掛けてきた作品とはいろいろな意味で毛色が違う仕上がりな印象を受けました。

長野 ありがとうございます。そういっていただけてうれしいです。実は社内で1話の試写をやったときも、あおきえいさんを始め、まわりのスタッフ陣から「TROYCAっぽくないね」という感想がよく出て、同じように「それは褒め言葉です」と返していました(笑)。僕がもともと所属していた、AICっぽい雰囲気がどこかあるんですよね。

――長野さんとしてはそう受け止められるのは狙い通りなんですね。

長野 TROYCAはどんな企画も分け隔てなく作っていくのが、会社としてのスタイルだと思っていたんです。実際、ロボットものから百合ものから男性アイドルものから、何でも自分たちがやりたい企画があればやってきたつもりでいました。だから、ありがたいことではありますが、もし何か「TROYCAらしい」というイメージができているのであれば、もう一回そこから、「どんな企画も分け隔てなく作る会社」という原点に立ち返る意味で、この『忍の一時』というタイトルは大切な、TROYCAの「異色作」になるのかなと思っています。

――企画がスタートしたのは約5年前だとか。

長野 そうですね。最初の大まかなストーリーの構成案が出ているのが2017年の初頭なので、より正確にいえば約6年前、2016年ぐらいから少しずつ企画を揉んでいて、形になり始めたのがそのころだと思います。

――DMMさんとのタッグは新鮮な組み合わせですが。もともとこの企画の前からつながりがあったんですか?

長野 いえ、完全にこの作品でゼロから始まったお付き合いです。というか、2016年頃というとDMMさんはまだアニメ業界に新規参入された直後で、いろいろなアニメ会社とパイプを作るために動かれていたんです。そうした流れの中で、弊社にもお声掛けをいただいた形です。おもしろかったのが、こうした形でメーカーさんから制作会社がお話をいただく場合、何かアニメ化したい原作の権利をすでに押さえてあったり、ざっくりとしたオリジナル企画のアイデアをお持ちなことが多いんです。でもDMMさんは、本当に何も形がないところから、「とにかく何かを一緒にやりたい」と言ってくださった。

――珍しいケースだったんですね。そこからどのように話し合いを進めていったのでしょうか?

長野 最初のうちはとにかく月1くらいのペースで集まって、ずっとブレストを繰り返していました。そこで出たのが、その当時はオリジナルアニメというと監督主導で立ち上がるものが多いんですが、たまにはアニメスタジオのプロデューサーから仕掛ける企画があってもいいんじゃないか? みたいな話だったんです。

――たしかにオリジナルアニメの企画というと、監督やシナリオ担当の方が企画内容を主導するものが多い印象があります。そうした話を踏まえると、TROYCAの配信番組【https://youtu.be/9uGk0ctHdUo】で企画の初期アイデアは「サラリーマン忍者もの」だったと話しておられましたが、これは長野さんからのご発案という理解でよいのでしょうか?

長野 そうなりますね。当初はDMMの担当の方のご意見もあって、アプリゲームと連動した形での企画を考えていたんです。それともうひとつ、海外のユーザー獲得を視野に入れたいという話でした。海外に向けて作るとき、日本ならではのコンテンツとして光る要素って何だろう? と考えた結果、分かりやすいものとして思いついたのが忍者で、それをそのまま企画に要素として盛り込んだ感じです。

――「サラリーマン」の方はどこから?

長野 「忍者」という要素は作品に入れたいけれど、時代劇ではなく現代劇にしたかったんです。というのも、当時の感覚だと、日本人が現代を舞台にした忍者が出てくる企画を考えると、どうもコメディになりがちだったんですね。「今どきあんな黒頭巾を使っているわけないじゃん!」と、思わずつっこみたくなるような存在としてしか忍者が描かれない。そして、海外の人たちって、意外とそれを信じていたりする。「実は忍者って、今でも居るんでしょ?」と、真面目に聞かれることもあるんですよ。そのイメージを払拭したいというか、「もし現代に本当に居るんだとしたら、こういう忍者像でしょう」というのを、この作品を通じて打ち出してみたたかったというのはあります。そうした考えも踏まえた上で、タイトルにインパクトを持たせる必要があり、「サラリーマン忍者(仮)」としました。通称「サラ忍」。(笑)

――現代にもし忍者がいるならこんな感じだと、作品で示そうとされたんですね。そこからのメインスタッフの人選はどのように?

長野 随分前のことなので少し記憶が曖昧なんですが……まずシリーズ構成・脚本の高野水登さんに入っていただいたはずです。ベテランの方にお願いするよりも、今回は若手の意欲のある方に入っていただきたくて、DMMの担当者の方からのご紹介でお声掛けしました。そして受けていただけることが決まってから、稚拙なものですが、僕がやりたいことをまとめた原案と呼べる文章をお渡しして、そこに高野さんなりの解釈やアレンジをいっぱいくわえた企画の構成案を作ってもらった。渡部周監督には、その段階で入っていただいたと記憶しています。

――渡部監督はTROYCAの初元請作品である『アルドノア・ゼロ』に始まり、多くの作品に各話スタッフとして参加されて、今作が長編のTV監督としては、初監督作になります。オファーの理由はなんだったのでしょう?

長野 アニメの監督にはいろいろな仕事のタイプがあるんですが、渡部さんなら全体を見る形での仕事をしてくださると感じたんです。協調性を持って全体を柔らかくまとめてくれるイメージが、それ以前の各話演出などでの仕事ぶりから感じられたんですよね。それが今回の企画にマッチして良い感じに纏めて頂きました。

――お話をうかがうと、やはり作品のビジョン自体は、長野さんの発案が大きいように感じられます。

長野 おっしゃるとおりだと思います。渡部監督も高野さんも、それからDMMさんも、僕がやりたいものを具現化するために、本当に多大な力を貸してくださった。僕自身としてはやりたいことをやれて、大満足のフィルムになっています。だからこの企画があまりに低評価だったら、今後僕はもう、TROYCAの企画にはあまり口を出さないようにしようと考えています。それぐらい自分のやりたいもの、見たいものを詰め込んでしまいました(笑)。

――企画を検討しているとき、長野さんの中に、何か作品の完成形のイメージはお持ちだったのでしょうか?

長野 映画の『二代目はクリスチャン』や、いわゆる「忠臣蔵」の物語。それとアニメでは『天地無用!』ですかね。どれもそのままの内容ではないですが、そういうシンプルな、わかりやすい内容にしたかったんです。そこまで頭を使わずに見ることができて、でも、見続けているうちに、自然とその物語に引き込まれる……そんな空気感が理想かなと。90年代や00年代ごろのテレビアニメって、そういうものだったと思うんです。仕事で疲れて帰ってきた夜に、テレビをつけたらなんとなくやっていたから観てしまって、ぼけーっと眺めているうちに、いつのまにかハマっている……みたいな。今はそうじゃなくて、「あの作品が始まるから正座待機しなきゃ!」みたいな感じじゃないですか(笑)。そういうものとはちょっと違うスピード感のある作品になったと感じています。

――ところで、完成した作品は「サラリーマン忍者もの」ではないですよね。主人公の一時は高校生の男の子で、同世代のヒロインたちも登場する。ここに至る企画の変遷はどのような流れで?

長野 そこは高野さんや渡部監督の力で、作品をよりよくしてくださった部分です。もともと僕の書いた原案の段階では、「いつも満員電車に揺られている大変な立場のサラリーマンが、実は社会の裏側で暗躍してたら面白いんじゃないの?」という着眼点から、完成したものよりももう少しシリアスに物語が展開する予定でした。でも、現代の高校生を主人公にして、その成長を描く物語にすることで、今のアニメを観るようなお客さんへの間口を広げてくれたんですね。判断として正解だったと思います。

――そうして企画が展開したあと、学園もの、美少女ものとしての要素で、長野さんが力を入れたポイントはありますか?

長野 水着回を入れてもらうことです(笑)。

――別作品の取材でしばしば、「提案したけど入らなかった」とお話しされていたものが、ついに。

長野 あとは紅雪のビジュアルも、僕のこだわりが入っているところですね。最近ツリ目の子がメインヒロインになることがあまりない気がしていたんです。大体、大勢のヒロインがいる中の二番手か三番手になる。でも自分としてはツリ目ってやっぱりいいなと思っていたので、その好みは反映してもらいました。あとはコロナ禍があって当たり前になっちゃったんですが、マスクですね。今のような状況になる前、企画の初期のころからずっと「紅雪はマスクをずっと着けている」と主張し続けていたんです。

――てっきりコロナ禍以降にデザインを調整されたものかと思っていました。

長野 違うんです。だから、ちょっと悔しいんです。マスク、それも黒いマスクをしているヒロインは新しいと思っていたんですけど、コロナ禍の今ではすっかり黒いマスクも見慣れたものに。

――そのアイデアはもともとどこから着想したものだったんですか?

長野 当時、ネットの生配信を見るのにハマっていたんですけど、そこで顔を出したくない方がマスクをされていることが多かったんですよ。するとだんだん、マスクで顔のパーツの隠された姿が、素顔よりもなんだか魅力的に見えてきたんです。これはスゴい! と思って、アニメのキャラクターデザインに取り入れてみたくなったんですよね。

――企画の大枠から個々のデザインに至るまで、長野さんのプロデューサーとしての目がしっかりと届いておられるのが、あらためて感じられました。序盤に海外ユーザーへの意識をうかがいましたが、国内での視聴者として想定されているのは、どのような方ですか?

長野 さきほど『天地無用!』のタイトルを挙げたりもしましたが、まさにあの作品をリアルタイムで楽しんでいたような人たち……30代、40代の男性で、かつてのOVAブームの頃にアニメを見漁っていた人たちには、ぜひ見てもらいたいです。僕自身も『天地無用!』のOVAからアニメにハマった人間で、そういう人間が面白いと思う要素をとにかく詰め込んだ作品にしました。それがどれだけの人に刺さるのか。

――同世代のアニメファンへのメッセージというお気持ちが強いのでしょうか?

長野 もちろん、若い人たちにも楽しめるように作ったつもりではあるので、そこにも刺さって欲しいです。あと、世代的なものだけではなくて、個人の趣味が反映された部分も勿論あります。例えば「任侠」的な要素とか、どうにもならない大きな力を前にしたときの哀しさだとか。……いろいろとお話ししましたが、オリジナル作品って、やっぱり最後まで見ていただけないとどうしようもないと思っているんです。1話から最終話まで通しで見て貰えれば、伝えたかったものがちゃんと届く作品になったので、少しでも引っかかるものがあったら、ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。

長野敏之さん プロフィール

株式会社トロイカ代表取締役社長・プロデューサー。元AIC所属。
代表作:『アルドノア・ゼロ』『Re:CREATORS』『アイドリッシュセブン』ほか

※AIC:株式会社アニメインターナショナルカンパニー。『天地無用!』『神秘の世界エルハザード』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』第1期等を手掛けたアニメスタジオ。

インタビュアー:前田久

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