SPECIAL

スタッフインタビュー

第2回スタッフインタビュー(シリーズ構成 高野水登さん)

――アニメのお仕事は『忍の一時』が初、という理解でよろしいですか?

高野 そうですね。世に出たのは『TIGER&BUNNY 2』の第6話が先になりましたけど、着手していたのはこちらが先なので、初作品と言ってよいかな、と。初めてのアニメの仕事でいきなりシリーズ構成を任せていただけて、それどころか全話脚本までやらせていただけた。本当にありがたかったです。


――これも確認になりますが、アニメはもともとお好きで?

高野 ですね。今は文字を書く方になりましたけど、中学のころはずっと絵を描いていて、「俺はいつかアニメーターになるんだ」とまで言っていたくらいなんです(笑)。


――それはかなりのものですね(笑)。

高野 今29歳なんですけど、中学校のときにちょうど深夜アニメの本数が爆増して、ニコニコ動画が盛り上がっていたんですよ。


――『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』あたりがちょうど中学時代ですか。

高野 そうそう! だから俺、「ハレ晴レユカイ」を未だに踊れます。そんな、まあまあ痛いオタクでした(笑)。だからもう、今回の仕事ができたのがうれしくて、うれしくて。


――アニメの「心の一本」はなんなんですか?

高野 難しい質問が来ましたね……そこは『カウボーイビバップ』なんですよ。幼稚園の頃から『ルパン三世』が大好きで、そうしたら母の知り合いが、「『ルパン』が好きなら、これも好きなんじゃない?」って教えてくれた。幼稚園児に薦めるアニメか? と、今はちょっと思うんですけど(笑)、観て、衝撃を受けて、それ以来ずっと好きなんです。それが心の一本ですけど、中学時代はしっかり『エヴァ』にはまり、『ハルヒ』にはまり、一通り通っていますね。授業中に綾波の絵をずっと描いている少年でした。


――『ビバップ』みたいなスタイリッシュなアニメが好きで、『エヴァ』や『ハルヒ』にはまって……って、まさにその要素、全部『忍の一時』にありますね。来るべくして来たお仕事だったのでは。

高野 いやー、ホントにありがたいです。

――企画に参加された段階では、どのくらい企画の概要は固まっていたのでしょう?

高野 TROYCAのプロデューサーの長野(敏之)さんがやりたいことは、参加した時点ではっきりしていました。やりたいことを実現する筋道は任せてもらえるんですけど、ゴールは最初から決まっていた……みたいなイメージですね。あとは僕が参加した時点で、「サラリーマン忍者もの」という大元のアイデアに、学園ものの要素も追加されていましたね。キャラクターもそれに合わせて、一時、時貞、紅雪の名前と立ち位置くらいまでは決まっていたと思います。要は現代忍者という世界観の中で、大人の時貞がいて、子供の一時がいる。そしてヒロインに紅雪がいる……くらいまでは、ざっくりと決まっていたわけです。


――では高野さんのアイデアを盛り込む余地も十分にあったと。たとえば、ここは高野さんのカラーが良く出ている、みたいな部分はどこになるのでしょう?

高野 アニメの仕事を初めてやってみて、「独特だな」と感じたところでもあるんですけど、世界設定の構築ですね。直接本編では語られない裏設定を決めることが、結果的には多くなりました。例えばこの作品の中での歴史とか。「どうして忍者はサービスエリアで働くようになったのか?」とか、忍具はどういうものなのかとか。


――忍具は今作のユニークな設定のひとつですが、どこから着想されたんですか?

高野 最初は実は、忍者同士の対決で「ローテク対ハイテク」をやろうとしていたんです。ハイテク甲賀に対してローテク伊賀、みたいな。でも、これが誤算がありまして……よくある忍者のイメージってあるじゃないですか。手裏剣だとか変わり身だとか、壁に布をやって隠れるとか。調べていくとああいうのが結構創作だとわかってきちゃって。大体、山田風太郎さん(※)か千葉真一さん(※)が作っていらっしゃるんですよ。リアル忍者は本来、滅茶苦茶地味で、それでハイテクと戦うのは難しいかも……とわかってきたところで吹っ切って、ある程度は科学技術に頼っている忍者の設定ができあがりました。

――キャラクター設定の面でこだわられたところは?

高野 紅雪のマスク。あの設定は肝入りです。あとは甲賀の当主の鬼道ですね。もともと「敵」という存在が好きなこともあって、力を入れて敵のバックボーンを書いたら、ちょっと張り切りすぎてしまった気もしています(笑)。


――実際にシナリオとして、キャラクターを描いていく際には、どんな点にこだわっておられたのでしょう?

高野 キャラクター全体でざっくりとしたこだわりを言うと、「地に足のついた感じにしたい」とは考えていました。それは僕に限らず、打ち合わせ初期からスタッフのみなさん全体で言われていたんですけど、少年マンガではなく青年マンガくらいの温度感で作ろう、と。つまりは「人間」としてキャラクターを作ろうという話をしていたんです。だから主人公が無双もしないし、女の子キャラが「○○だわ」「○○よ」とも言わない。フィクションっぽくなってしまう要素を、徹底して入れないように心がけました。その考え方がストーリー展開にも繋がっていて、とにかく真っ当に、真っ直ぐな話を全12話かけてやっています。しっかり全部計算して、1話も無駄にならないように作ったつもりですね。

――その中に長野さんこだわりの水着回も入っているのが、また素晴らしい話ですよね。

高野 長野さんだけじゃないですから! 水着と温泉回は僕も滅茶苦茶こだわりですよ! これが書きたくてアニメのシナリオを書いてるところがあるんだから!


――発言が力強すぎる!(笑)。

高野 当たり前でしょ!! 楽しく書きました。水着回なんて、脚本で衣装の指定までしちゃってますからね。「この子は色気のないスクール水着っぽいやつ! こっちは可愛らしいやつ! こっちはちょっとパーカー羽織ってます!」とか。中坊のときに水着回でドキドキした気持ちを呼び覚まして書きました。ただ、そんな回でもただの息抜きでは終わっていなくて、ちゃんとお話は動いているんです。


――そこもこだわりで。

高野 そうなんです。1話毎の満足感を重視したかったんですよ。全12話で連続したストーリーが展開する、縦軸のある作品ではあるんですけれど、毎話何か事件が起こって、それが解決するところまでやるのは意識していました。そうしないと、アニメに限らず、今、新しい作品に触れる人は、「次も観よう」と感じてくれない気がしているんです。何も解決しないで、謎は全部先に、先に回して、次に続くやり方のほうが楽なんですけどね。

――では最後に、ご自身もアニメ好きでもあられる高野さんから観た、今作の見どころを。

高野 とにかくこの作品は、飛び道具を使わずに、スタッフ陣からキャスト陣から誰もかれもが、全員ストレートパンチ、正拳突きの勢いで作ってくれた感覚なんですよ。だから、きっと安心して楽しんでもらえるものになったと、僕は思っています。オリジナルものは先が読めないところが魅力ですけど、先がどうなるかわからないものはどうしても当たり外れが判断しづらくて、見続けるのが不安になることもあるかもしれない。でもこの作品に関しては、安心して楽しんでもらえる、シンプルにおもしろいと思えるものを、関わってくださったみんなで作れたと自負しています。ぜひ、お気軽に観ていただければと思います。

――ありがとうございました! ……と、なんだか真面目な雰囲気でキレイに終わったと見せかけて、ごめんなさい、「最後」といっておきながら、もうちょっと続けてもいいですか? 高野さんがゴリゴリのオタクなことが判明したので、せっかくなのでもう少し軽めの話をしたくて。

高野 どうぞどうぞ


――……ぶっちゃけ、ヒロインの内、誰が好みのタイプですか?

高野 どこが軽めですか! これまた難しい話じゃないですか!! ……やっぱりな〜。紅雪ちゃんが好きなんですよ。シリーズ後半の展開なんか、それは、それはもう、気持ちを入れて書いたんです。それも含めて、紅雪ちゃんは僕のアニメキャラに対する趣味の全てを詰め込んだ女の子なのは間違いない。綾波レイと長門有希にやられてしまった、完全に心を奪われてしまった人間だからこそ生まれたヒロインだといっても過言ではないです。そして、そんな子をサブではなくメインのヒロインにする! ってところに僕の人間性が表われている(笑)。

――わかりすぎます。

高野 ただ、紅雪ちゃんは大好きですけど、だからといって他のキャラに手を抜くことは一切ないですけどね。みんな好きです。涼子ちゃんも、オタクキャラなのにいかにもオタクっぽい見た目じゃなくて、性格も言葉遣いもしっかりしてる女の子。そういう子が、忍具の話題になるとただのオタクになるところとか、好きになっちゃいますよね、どうしたって。僕がそうだからわかるけど、オタクはみんな、そういう子が好きなはず。……あの、インタビュアーさんは、全話最後まで観られたんですよね?


――ええ。

高野 僕は綺麗みたいなキャラも好きなんで、実はかなりこだわって、あの雰囲気が出せるようにお願いしていて……。分かる方にしか伝わらない様な裏設定も隠しておいたので、気付く方がいてほしいですね!


――――(笑)。

高野 いやー、もう、ダメですね。普通に話しているだけで、滲み出ちゃうんですよ、中坊のころからずっと残っている、どうしようもないオタクな感じが(笑)。それを今回の作品では、表だって全力で作品に詰め込めたので、あらあためて思いますが本当に良かったです。視聴者のみなさんにも、そんな感覚を楽しんでもらえたらうれしいですね。


高野水登さん プロフィール

脚本家。Queen-B所属。
代表作:ドラマ『真犯人フラグ』、ドラマ『あなたの番です』、実写『映像研には手を出すな!』シリーズ、実写『賭ケグルイ』シリーズ

※山田風太郎
伝奇、推理、時代小説を中心に活躍した小説家。『甲賀忍法帖』に始まる「忍法帖」シリーズは1960年代に爆発的なブームを巻き起こし、その後のマンガ、アニメなどの忍者・忍法描写に多大な影響を与えた。没後も度重なる復刊、コミカライズなどを通じ、世代を越えて愛され続けている。
代表作:『魔界転生』『警視庁草紙』『妖説太閤記』ほか多数

※千葉真一
俳優・映画監督。日本を代表するアクションスター。海外でもサニー千葉(Sonny Chiba)の名前で有名。大ヒットしたテレビ時代劇「影の軍団」シリーズを始め、数々の作品で忍者に扮し、華麗な殺陣を披露している。
代表作:『殺人拳』シリーズ『仁義なき戦い 広島死闘篇』『柳生一族の陰謀』『キル・ビル』ほか多数

インタビュアー:前田久

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