SPECIAL

スタッフインタビュー

第3回スタッフインタビュー(アニメーション監督、演出 渡部 周さん)

――TROYCAさんとはスタジオ設立当初からの長いお付き合いですよね。

渡部 『アルドノア・ゼロ』1期の後半からなので、スタジオの初期からになりますね。プロデューサーの長野(敏之)さんを始め、スタジオの人との付き合いという意味では、その前のAIC時代からなのでもっと長くなりますが。


――そうした流れの中で、今作で監督を務めることになった経緯は?

渡部 僕はアニメ業界でのキャリアは20年くらいで、その内のだいたい半分、10年くらい演出家としてキャリアを積んできたんですね。そこから次のキャリアステップを考えたときに、監督業が視野に入ってきた。そのために必要なことは何かと考えたときに、企画の作り方をちゃんと覚えようと思ったんです。それで長野さんに、「何かの作品の企画会議を、見学させてくれませんか?」と、今話したような理由も添えて相談したら、「TROYCAでオリジナル企画が動いているんですが、興味はないですか?」と言われたのが、最初のきっかけですね。


――それでいきなり監督に。

渡部 そうなんですよ(笑)。段階を踏んでやっていこうと思っていた矢先だったので、「一気にそこに行くのか」と思いもしましたが、やはりやりたい気持ちが勝って、引き受けることにしました。

――その段階では、企画の内容はどの程度決まっていたのでしょう?

渡部 もともと実はゲームアプリとの連動が考えられていて、ゲームの企画に「忍者たちがサービスエリアを根城にして、陣取り合戦をする」みたいな設定があったんです。だから当初の主人公もサービスエリアで働くサラリーマン忍者だったんですが、それを踏まえつつアニメの企画を立ち上げていく段階で、やはり主人公は大人より少年がいいよね……という話になって、サラリーマン忍者という設定は活かしつつも、プロットが変更された。その段階で僕が監督として合流した……という感じですね。


――そこから、監督としてどんなオーダーを出されたのでしょうか?

渡部 プロットの段階でスタートと、物語が最後どこに着地するか、着地点の半歩分くらいまでは決まってたんですね。だから参加してからの話し合いでは、そのあいだのストーリーをどう埋めるかが議題でした。そこでは僕がオーダーをだすというよりは、僕も意見を出しながら、参加者みんなで話し合っていくような形でしたね。結構、四苦八苦しながら進んでいきましたよ。


――監督としては、その段階ではどんな点が大変でしたか?

渡部 最初に提示されたものが、僕の考えでは武士の話だったんですね。言い換えると、「義」のために行動する人たちの話。でも忍者って、基本的に『利』を求める職種なので、「義」と『利』は交わらない。そこをどうやったら上手く交わらせることができるか……そこが大変でした。関わった人の中でも、特にライターの高野(水登)くんは頭を悩ませたんじゃないかと思います。

――忍者としての設定や、忍術の扱いはいかがですか? 今作の忍術は、現用兵器に近いもので、そこも作品の特色かと思うのですが。

渡部 そこに関しては、「忍核」というある種のバッテリーで、「忍装」というモーターにあたる装備を動かすようなイメージで、そうしたひとつだけ大きな嘘、ファンタジーの設定を作り上げたあとは、起こる現象は現実的なものになるようなバランスで考えました。2話の火遁の術の扱いとかを観ていただけると、そこはよく伝わると思います。

――ビジュアル面も含めた映像の総合的な観点では、どんなことにこだわられていたのでしょう?

渡部 少し求められいるものとは違った角度からのお答えになってしまうかもしれませんが、TROYCAという制作会社ができてからそこそこ長い年月が経って、若いスタッフが増えてきたんです。そうした子たちに新しい仕事というか、新しいチャンス、新しいポジションを与えてあげたい気持ちがまずありました。この作品を通じて、会社の中から新しい人を発掘したい。それが上手く行けば、TROYCAとしても新しい力が手に入るし、そこから今後の仕事の幅が広がるんじゃないかなとも思ったんです。


――人材育成的な意識が。

渡部 1クールで終わる作品ばかりではなく、昔のように1年かけて放送される作品が多かった時期には、言葉は少し悪いかも知れませんが「お試し」みたいな話数を作って、そこで若いスタッフにチャレンジしてもらうことができたんです。でも今のアニメ業界が置かれている状況では、同じことがやりづらい。であれば、作品自体をひとつ、そういうことができる場として作ってあげた方が、若い子たちはやりやすいのかなと。それもあって「肩肘を張らないで観られる作品に落とし込みたい」ということは意識していました。


――長野さんも「シンプルな、わかりやすい内容」、「90年代や00年代ごろのテレビアニメ」の空気感というような、近いお話を取材でされていました。

渡部 お話もですし、画面づくりにも流行があるんですよね。今回はそのへんを20年くらい前のテイストに戻しつつ、それでいて、今の視聴者のみなさんにも楽しんでいただけるように意識して、絵コンテ以降の作業もやった感じです。セル画時代のベーシックな表現に戻しつつ、フィルムっぽいニュアンスが出るようにも考えつつ、今の若い人たちにも共感ができる範疇のバランスで……。


――上手い落としどころ探りながら。

渡部 そうですね。そうはいいつつ、押さえるべきポイントではしっかりと見せ場を作ってはいるんですが、全体的にはシンプルな画面作りになるよう、気を使う。そうやって絵コンテでの設計はシンプルにしておいて、そのときどきで現場の人間が、求められている以上のがんばりを見せてくれたら、それは全然いい。筋さえ通っていれば、やりたいことをやってオッケーだよ……という形で作品をつくりたかったんです。がんばればがんばるだけ、それがそのままフィルムに反映されることを、若いスタッフに実感してもらえたらいいな、と。実際、こちらの想定した以上のよいものが上がったところがいくつもあって、「監督の仕事の魅力って、こういうものなのかな」と、自分としても楽しませてもらいました。


――では最後に、既に全話完成されているわけですが、監督の考える今作の最大の見どころは?

渡部 この作品では、主人公以外の別のキャラクター……たとえばライバル側にカメラを置いても物語を作れるような、その世界にキャラクターたちが生きているように感じられる、地に足のついた世界観を作り上げました。その上で、『忍の一時』というタイトル通り、あくまで一時くんという主人公の物語を描いているんです。一時くんがいろんなことを考えながら、物事を決めていく。その決める過程と、決めた後の強さを、ぜひ観て欲しいです。「覚悟を決めた人間は強い」というか、決めた瞬間から、独特な力強さを持つ。それを繰り返すことで、人は一歩ずつ成長する。社会もそうだと思うんです。それが作品を通して伝わったらいいなと。

――ヒロインたちを始め、魅力的なキャラが多数登場しますが、あくまで一時の成長の物語として監督としてはお作りになられた。それも地に足の着いた、これもまたちょっと近年では珍しいものですね。

渡部 そうですね。TROYCAで参加した『Re:CREATORS』という作品でも、主人公はいろいろと大変な経験をしますが、僕の感想として主人公の成長が「ほんの一歩」だけ描かれていたと感じたんです。。もっと劇的に主人公の成長を描けたのにあえてそうしていない意図を感じました。それを見た時に「たしかに現実ってそういうものだよな」と感じるものがあった。それが『忍の一時』での一時くんの描き方にも影響しているところがあって、そういう意味ではこの作品には、TROYCA作品はもちろん、これまで自分が関わらせてもらった作品からの影響がよく出た作品になったんじゃないかとも感じています。

渡部 周さん プロフィール

アニメーション監督、演出。
代表作:『アルドノア・ゼロ』『Re:CREATORS』『アイドリッシュセブン』演出 など

インタビュアー:前田久

BACK