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スタッフインタビュー

第4回スタッフインタビュー(キャラクターデザイン・総作画監督 鈴木 勇さん)

――最初に企画の説明を受けたとき、どんな感想を持たれました?

鈴木 「TROYCAであんまりやらない感じの作品だな」と、「アクションが面白そうだな」という感じでしたね。キャラクターデザインにはコンペを経て決まったんですけど、企画の内容よりも何よりも、自分としては「やっとキャラデザができる!」という喜びのほうが大きかったというのが、正直なところです(笑)。


――キャラクターデザインを担当されるのは今回が初めて、しかもオリジナル作品ですものね。

鈴木 だから、いろいろなことを試してみたいと思っていました。


――ちなみにコンペの段階では、どのようなオーダーがあったのでしょう?

鈴木 コンペでは一時と紅雪と時貞をデザインしたんですけど、その段階では「マスクをしている女の子」とか、「どこにでもいるような男の子」くらいの指示でしたね。キャラデザに正式に決まった後に、作品が狙っている年齢層に合わせたり、いろいろと調整していったんです

――コンペ段階ではかなり自由度が高かった。

鈴木 そうですね。逆にいえば取っ掛かりが少ない状態だったので、自分の素の絵柄が前面に出たものになっていたと思います。だからコンペのために描いた最初期の絵は、あんまり自分では見たくないですね……(笑)。


――そこから絵柄を調整していく過程では、どのようなオーダーが?

鈴木 TROYCAの社長の長野(敏之)さんからは、「紅雪は小動物みたいな可愛さを出せたら」と言われましたのを覚えています。思いの外、絵としては普通の女の子になってしまった感が、自分としてはありますが……。

――いやいや。雰囲気ありますよ。渡部周監督からは、何かありましたか?

鈴木 基本は好きにやらせてくれて、上がったものに対して指示をいただく形でした。たとえば、キャラクターの膝の位置とか。「脛が長い方がカッコいい」と言われたんです。自分は解剖学的なこだわりで、「大腿骨が人体で一番長い骨だ」という知識に基づいて描いていたんですが、立ち絵で見たときに膝の位置が低くなってしまうんですね。それを考えると、脛が長い方が見栄えがする。そういう、自分の中で勝手に「こうしないと」と決めつけているところを、監督に壊してもらったような印象でした。

――さきほどお話に出た、企画の狙っている年齢層に合わせた調整というのは?

鈴木 少年誌ではなく、青年誌くらいのテイストだとざっくり言われたので、少しリアル寄りになるように意識しました。「ヤングジャンプ」に載っていそうなイメージというか。ただ、もともと僕自身、リアル寄りな絵が好きなのもあって、結果としてはそんなに描いたものに大幅な修正が入ったわけではないですね。絵柄もそこまで、この作品のためにデザインしたというより、結局自分の素の絵柄に近いものにはなってしまったような(笑)。


――ちなみに鈴木さんの素の絵柄のルーツというか、ベースになっているものはなんなのでしょう?

鈴木 合田浩章(※)さんの作品が好きで、真似して描いていたこともあるし、仕事でも直接いろいろとお世話にもなったこともあって、そこが一番のベースになっています。そうですね……だから「リアル」といっても、マンガ寄りの「リアル」みたいな感じで、ゴリゴリではないんですよね。


――完全に写実的なテイストではない感じですよね。業界で、意識している先輩だと合田さん?

鈴木 そうですね。いろいろとキャラ表(キャラクター設定画の通称)をコレクションしていたりもするんですが、今回のキャラ表を起こすときも、合田さんのそれに多少影響を受けて描いた部分があります。


――合田さんといえば魅力的な美少女をお描きになる方の印象が強いのですが、やはり鈴木さんも、もともとはそういう作品がお好きなんでしょうか。

鈴木 いえ、美少女が好きというより、いろんなジャンルが好きですね。だからアニメーターとしても、なんでも描きたいタイプなんです。それこそ「プリキュア」みたいなキッズ向けのタイトルも好きだし、普通に男の子キャラを描きたい気持ちもあります。……ただ、『忍の一時』には、「もっと女の子キャラがいたらよかったな」とは思いました(笑)。


――わはは。企画が発表されてすぐは多人数ヒロイン推しな感じがしましたが、蓋を開けてみたら結構、男臭い感じの企画でしたもんね(笑)。

鈴木 渡部(周)監督に「椿(里美)をデザインしてからいい感じに絵が変わったね」って褒められたのに、そのあとの作業で女の子のキャラデザがほとんどなくて。男性キャラ……というか、“おっさん”が多かったんです。大事なのはそっちなんだなと(笑)。もちろん、大勢のおじさんキャラもがんばってデザインしましたし、あれはあれで楽しい作業だったんですけど、もうちょっと女の子もデザインしたかったです(笑)。

――デザインするのが大変だったキャラはありますか?

鈴木 そういう話だと、弓香ですかね。大人の女性のキャラは全体的に、特に長野さんの中にイメージが結構ははっきりとあったんです。弓香は昔のバイト先にいた女の先輩だとか……。


――長野さん、そんな形でもこだわりを……(笑)

鈴木 どこまで自分がそのイメージを盛り込めたかはわからないんですけれど(笑)。それはちょっと余談にしても、主人公のお母さんなので、いわゆるマンガ的なお母さんらしさを入れつつ、カッコいい女性像みたいなものを出そうと思ったんです。お父さんが亡くなっていて、女手一つで息子を育てている、その雰囲気をきちんと絵でも表現したかった。あと、和服を着たりもするので、その設定も難しかったですね。

――今作ではキャラデザに加えて総作画監督を務められていますが、総作監としてのお仕事はいかがでしたか?

鈴木 そこに関しては監督が「任せる」と言ってくださったので、好きにやらせてもらいました。確認したのは、「水着回の露出はどのくらいにしますか?」くらいですね(笑)。


――大事なところですよね(笑)。では最後に、鈴木さんの考える、今作の見どころを教えてください。

鈴木 紅雪の弓香に対する想い、そして、主人公の一時が何を選び、何を決めていくのか。そんなキャラクターの心情の部分を見てもらえるとうれしいですね。あとはアクションシーン。自分としてもこだわって取り組みましたし、牧野竜一さん(※)を始め、他のアニメーターさんたちも力の入った仕事をしてくださっています。特に最終話のあたりの牧野さんの仕事は、やはりすごかったので、楽しみにしてください。

鈴木 勇さん プロフィール

アニメーター。
代表作:『ラブライブ!』シリーズ、『魔装学園H×H』、『アイドリッシュセブン』、『ロード・エルメロイII世の事件簿』(作画監督)、『やがて君になる』(総作画監督)ほか多数

※ 合田浩章:アニメーション監督・アニメーター。代表作は監督として『ああっ女神さまっ』シリーズ、キャラクターデザインとして『おねがい☆ティーチャー』『アマガミSS』『やがて君になる』など。

※ 牧野竜一:アニメーター。代表作は『BPS バトルプログラマーシラセ』『放浪息子』『Re:CREATORS』(キャラクターデザイン)、『ロード・エルメロイII世の事件簿』(メインアニメーター)など。

インタビュアー:前田久

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